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宇陀簡易裁判所 昭和36年(ろ)6号 判決

被告人 五谷信次

大一四・一・三生 養鶏業

主文

被告人は無罪

理由

本件公訴事実の要旨は「被告人は法定の除外事由がないのに、昭和三十六年四月三十日午後四時頃、原動機付自転車を運転して桜井市出合町、国鉄桜井線出合踏切を通過するに際しその直前で停止しなかつたものである」というにあるが、

被告本人の当公廷における供述、司法巡査作成の道路交通法違反被疑事件報告書、被告人の司法巡査、検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書を綜合すれば、被告人が昭和三十六年四月三十日午後四時頃原動機付自転車を運転して、桜井市出合町所在の国鉄桜井線出合踏切にさしかゝつた際、右踏切の直前にトラツクが、次で乗用車が停車していたため被告人はその後方に停車したが被告人の車と踏切の距離は約十五メートル位で、同踏切は左右の見通しも良好な場所であつた事、間もなく先行の右トラツク、乗用車が進行し始めたので、被告人も左右を確かめた上、これにつづいて進行し、踏切直前で停止することなく、これを横断したことが認められる。

而して、被告人は当初から、先行車に続いて踏切の約十五メートル手前で停車し、左右を確認した上進行したのであるから、あらためて踏切直前で停止する必要もないものと考えて、除行しただけで停止することなく、横断した旨弁疏するのに対し、検察官は事実がその通りであるとしても、なお、踏切の直前で停止すべきである旨主張するので按ずるに、

被告人は前段認定のとおり、先行車二輪に続いて踏切から約十五メートルの所で一旦停止し、先行車の進行に際し、単にこれに追随するのではなく、自ら左右の安全を確認した上進行を始めたというのであるから、被告人の右踏切十五メートル手前の停車は、これを道路交通法第三十三条にいわゆる踏切直前の停車と解することは何ら妨げないところであるというべく、検察官の所論はあまりにも形式的にすぎて採用し難く、他に右判断を覆すに足る本件公訴事実の証拠による証明がないから、結局本件被告事件についての犯罪の証明がないことに帰するので、刑事訴訟法第三百三十六条後段に従つて被告人に対し無罪の言渡しをすべきものである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 今富滋)

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